2007年03月08日

コーヒーの気持ち

【舞台】
高い天井、装飾らしいものはなく無機質な壁に囲まれたスタジオか舞台のような大きな部屋。家具や装置はなく、暗くも明るくもない適度な照明。時折ピンスポットが照らされる。

【登場人物】
コーヒー豆のコスチュームの人物が舞台の端から端まで埋め尽くす様に多数立っている。胴体部分を豆の形の張りぼてで覆い、全身タイツ姿の脚と手足を突き出している。髪型やメイクなどそれぞれ個性がある。ウディ・アレンのような眼鏡の人物、スキンヘッド、黒人のサンビスタ風、横分けハンサムなどなど。(以下、単にコーヒーと略する)

SCENE1
溶明。音と映像が同時にフェードインしてくる。
カメラはクレーン俯瞰で床に蠢くコーヒーをなめていく。コーヒーは各々勝手に話をしている。音楽はなく、声のみが反響している。

ナレーション(以下、Nと略する)「ここは、とあるコーヒー豆の保管庫である。人にとっては保管であっても、当のコーヒーたちにとっては収容所。炎で炙られて焙煎されるまでのしばしの間、アウシュビッツな気持ちでひたすら待ち続けるのだ」

コーヒーたちは、天を見上げて台詞回し。カメラは俯瞰からのアップで切り返す。台詞のコーヒーにピンスポット。

コーヒー「我々にできることは待つのみなのか?」
コーヒー「いや、きっと待てば海路の日和が……」
コーヒー「俺らはどうせ焼かれる運命なのだ」
コーヒー「でもコーヒーは焼かれてなんぼのもん!そのままじゃ食えない」
コーヒー「おお、神よ、人の望みの喜びを!」

溶暗

SCENE2
溶明
カメラはコーヒー視線の位置。最初は広角気味で全体を写し、手持ちで台詞のコーヒーの元へと移動。早急なパンを使いながら会話のコーヒーをアップ捕らえる。コーヒーの中に独り石のコスチュームを着た人物が入り込んでいる。(以下同様)

コーヒー「おい!何でこんなところに石が混じってんだよ」
石「……………」
コーヒー「ここはコーヒーしか入れねえんだよ」
石「……………」
コーヒー「誰かこいつをつまみ出せ!」
コーヒー「まあ、いんじゃないの。好き好んでこんな所へ来たわけじゃないし」
コーヒー「出来ることならブラジルの平原でサンバでも聴いていたかっただろうに。」
コーヒー「それがここは日本だぜ!何でブラジル生まれの俺らが日本に!」
コーヒー「いったい全体日本ってどこ?」
コーヒー「もぎられ、洗われ、干され、袋に入れられ、船に乗せられ、挙句の果てには日本!」
石「……………」

溶暗

SCENE3
溶明
コーヒー「おい、ハンドピックの噂を聴いたことあるか?」
コーヒー「ハンドピック?」
コーヒー「そう、突然、天から大きな手が伸びてきて連れ去られるんだよ」
コーヒー「どこへ?」
コーヒー「そんなこと、知らん。でも狙られるらしいぜ……」
コーヒー「誰が?」
コーヒー「かけた奴とか、不細工な奴、虫食った奴、カラカラの奴なんかが……」
コーヒー「え!それって差別じゃん!」
コーヒー「その通り、選別されて連れ去られるらしい」
コーヒー「やばいじゃん!俺大丈夫かな?」
コーヒー「どうかな?確かにあんた、かけてるよな?」
コーヒー「(あたふたと自分を見直す)え、どこどこ?ほんと?」
コーヒー「(声を潜めて)相当やばいね」

その時突然、舞台脇のコーヒーに天から張りぼての大きな手が降りてきて連れ去られる。

コーヒー「ぐああああああああああああああああ!」
コーヒー「ハンドピックやだぁぁ!まだ焼かれる方がいいよ〜」

溶暗

SCENE4
溶明
カメラはクレーンでコーヒーの間から上昇しながら俯瞰でとらえていく。ナレーションがかぶさる。サンバのパーカッション音がフェードインしてくる。

N「こうしてブラジルから来たコーヒーたちは静かに焙煎を待っているのだ。来るべき時は近い。」

溶暗
posted by 焙煎師TIPO at 12:36| Comment(0) | TrackBack(0) | SCENE