果てしなく続く大地の様にフラットに荒らげたり憤ることなく生きたいものです。でも時として周囲に過剰反応して、ささくれ立つことがあります。当人はもとより周囲の人にとってもピリピリとした空気感は痛くつらいもの。どうやら、荒れた気持ちをクールダウンさせるにはシンプルな作業に没頭するのが最適なようです。
コーヒー屋の真価を問われる双璧のシンプルな作業が焙煎と抽出です。どちらもハイテクにもナノテクにも無縁の単純工程(自然法則に基づいた単なる化学変化)です。
例えば焙煎機。店頭の黄色い釜を見て、「おお!これが焙煎機ですか!」なんていっても、構造は極めて単純。ガス(熱源)の上で生豆がくるくる回っているだけです。釜に掘り込み、火をつければ、勝手に10数分でコーヒー豆は煎り上がります。焙煎士と偉そうなこと言っても基本的に操作は火力調節(ガスコック)とダンパー(空気弁)のみ。いじりたくても他に何もいじれません。基準となるのは豆の色、香り、音そして気まぐれな温度計のみです。そういう意味では恐ろしくシンプルな機械です。
都市ガス出力40%、釜内温度摂氏154度、二酸化炭素値上昇中!
除湿工程進行中、現在豆水分量推定7%、エントロピー値25%上昇
シュレディンガー値マイナス15ポイント!作業工程良好!
このままの状態を継続!了解!
なんてややこしい台詞とは死んでも無縁です。
だから面白いのです。焙煎機を相棒に豆と会話をするしかありません。味方につけるは空(温度、湿度、風)のみの色即是空な世界です。おいしいコーヒーのために、コーヒー君に素直に心を解き放ち、気持ちよく膨れてもらわなければなりません。まずは気軽に「サヴァ?」と世間話で盛り上げます。
しかし鬱陶しい天気やなぁ。どう、最近、儲かっとる?
まあ、ぼちぼちでんな。おたくんとこは?
うちもぼちぼちやな。そういやこの前、イルガチェフのおっさんがな……
と定番会話を押さえながらもズイズイと除湿します。会話も弾んだ頃合に密かに火力を上げ、一気に焙煎工程へと衝き進みます。豆を知らぬうちに、
ああ、ええ気持ちやわ。
という気分にさせておいしく煎り上げます。これが焙煎です。もちろんこの会話を釜の前で口に出していると単なる変態扱いされます。心の声です。
抽出も同じです。基本的にはネルであれ、紙であれ、粉に湯を注ぐだけです。でも手加減次第で天国と地獄の様に味わいが異なります。紅蓮の炎に焼かれた罪深き味わいか、天使が舞い踊る至極の味わいかはあなたの手先三寸です。
シンプルな作業だからこそ、わかることは多く、没頭すると雑念が飛び、束の間の悟りに至ります。ささくれ立った時こそ、作業に無心に没頭するとよいようです。面白いものですね。
さあ、そんな風にいらいらしてないで、コーヒーでも淹れてごらん!
今ならコーヒー豆全品100円オフもやってるからさ!
……と最後は一応営業で締めるのさ!
2006年07月12日
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