2007年04月15日

マリオ・ワタナベさんのコーヒー

BRASILニュークロップスタンプラリーの第五弾登場です。
これにて一通りのラインナップが勢ぞろいいたしました。


誰にでも思い出の中にのみ存在する「幻の味」というものがあります。現実には決してもう一度味あうことができないけど、パブロフの犬のように幻の涎すら涌いてくる、魂の琴線に触れるような食べ物。例えば、それは幼少期の思い出の店、京都の新京極(寺町)にあった洋食店「ムラセ」のワラジカツがそうです。皿からはみ出さんばかりに薄く叩いたカツに埋もれた付け合せのキャベツと冷えたケチャップのスパゲッティーと無愛想な店主が今も思い出の中で息づいています。もう1つ、富小路の中華料理「大三元」、ココも無愛想な接客と焼飯の味が忘れられません。どちらも、閉店してしまいましたが、これが私の洋食と中華好きのルーツであることは否定できません。もはや食することが出来ない故に無敵の存在です。

TIPOGRAFIAは開店からまだ2年にも満たない店ではありますが、僅かながら思い出になるような幻の味が存在します。それが「ワタナベさんのコーヒー」です。日系ブラジル人(移民の3世代目)エウリコ・ワタナベさんのコーヒーは開店以来一番人気でした。TIPOGRAFIAへはニュークロップが適度に枯れた頃やってきました。絶妙な甘い香りとやさしい味わいが醸し出され、最もTIPOGRAFIAらしい豆でした。そして過去形を使っている通り、それはもはや決して味会うことができないものです。

今回のコンテストで、もうひとりのワタナベさんのコーヒーに出会いました。日系移民のマリオ・ワタナベ氏のアラーラス農園です。コンテスト(2006カップ・オブ・プログレッシブ・セラード)ではナチュラル部門で2位を受賞いたしました。亡き人の面影を別人に求めるのは良くないことかも知れませんが、コンテストの結果を知った時「WOW!これはTIPOGRAFIAの豆やで!」と勝手に嬉々しました。ということで、スタンプラリーのオオトリはワタナベさんです。

福島県生まれの渡辺鉄五郎は1934年、17歳の時に新天地ブラジルへと移民。しかしコーヒー農園での生活は言葉の壁に阻まれ困難を極めました。その後、熊本県出身の長田澄江と結婚して誕生したのがマリオです。養鶏を営みながらも、1975年アグリア市に土地を購入し、コーヒー栽培を開始。ワタナベ氏はセラードエリアのコーヒー栽培の先駆者であり、この地での栽培が確立されておらず悪戦苦闘の日々が続きました。その後、父から引き継いだマリオは堆肥を中心に栽培、作業、栽培品種を改善していきました。農園は標高900メートルのミナス・ジュライス州アラグリアに位置します。今回の出展豆は100%樹上で自然乾燥したムンドノーボ種。………とプロフィールを見ていると、なんかNHKドラマ『ハルとナツ』を観ているみたいですね。何より渡辺鉄五郎という名前が泣かせますね。苦労が皺を刻んだ、燻し銀の味わい?バックには、♪らららららららららら〜と「北の国から」のテーマが流れてきそうです。

さてさて、肝心の味わいです。
弱火でじっくりと、あっさりと中煎りにしてみました。かすかな苦味とやわらかいすっきり感(酸味)が拡がります。液体の残り香は抜群です。誠に個人的な趣味でいえば、5農園で一番好きかも知れません。今は亡きもうひとつのワタナベさんのコーヒーの面影を探しているのでしょうか?ということでネーミングはそのまんま……

        マリオ・ワタナベさんのコーヒー

で決定。ふたりのワタナベさんが全く出逢ったことがない人か、人生のどこかですれ違っていたのかは知るよしもありませんが、確かなのはここTIPOGRAFIAでふたつが交わりました。あ、映画『ふたりのベロニカ』みたいですね。最初の「ワタナベさんのコーヒー」を知る人も、知らない人もぜひお試し下さい。本日より喫茶、豆売り(200g900円)で提供開始。
posted by 焙煎師TIPO at 12:40| コーヒー