人の嗅覚は変化には敏感であっても、恒常的な状態には慣れが生じて鈍くなる傾向があります。多分、皆様がTIPOGRFIAの扉を開け一歩踏み出せば、コーヒーの香りを感じることでしょう。挽いた時の香ばしさ、淹れた時の甘さ、煎った時の苦さ(←皆様はどれが一番お好きですか?私は挽き派です)が入り混じった香りに全身を愛撫されるはずです。店内にずっといる店主は香りに慣れてしまい、日常的には顕著に感じませんが、定休日、店内に染み付いた香りは甘い香水の残り香のように周囲を支配し、外出して店へと戻ってきた時には再び香りが蘇ります。コーヒー屋として身に染み付いた香りです。
実は父の実家は京都の漬物屋です。コーヒー屋と同様に店にはあの漬け込みの独特の匂いが染み付いています。懐かしくも当たり前の様に体が反応し、すっぱいあの匂いはDNAに記憶された遺伝子情報のように記憶を喚起させます。そして寒さが募るこの季節になると懐かしい香りと共に京都冬のソウルフードとも言うべき千枚漬とすぐきを食したくなります。

正月には家族全員ですき焼きをつつき、鍋の後、白飯と漬物でお茶漬けを食べます。果たしてこの記憶が実際のものなのか、香りに喚起された架空のものなのかは判りません。そう、香りを巡る全ての記憶は潜在的にリンクしています。決して切れぬ前世の業のように。

千枚漬本家 大藤(だいとう)
麩屋町店 新京極店
posted by 焙煎師TIPO at 12:40|
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日記